頭からっぽのほうが夢つめこめるってだれかがいっていた。詰め込みすぎた夢があたまを吹き飛ばすなんて夢にも思わずに。うふー。



 その頃はまだ夕焼けを見てカラスが鳴くからかえる歌を思い出す程度の幼く拙い思考力しかなかった黒木は、国道八号線すぐの田圃真っ只中にある、電気の切れたトンネルで、エンジンを吹かさずサイドブレーキもかけた状態なのに上下左右に運動する乗用車を知っていた。俗にも聖にも言うカーセックスである。性に目醒める頃を吹っ飛ばして実体験を刷り込まれてしまった黒木は、その衝撃を消化するだけの器官を持たないために大変な自己不安に陥り、成人恐怖、ひいては人間恐怖に一時期のみ罹ってしまいすらしたのである。

 そんなにもトロウマティックな勢いで幼少時代をすごした黒木にも夢はあった。発明家、お医者さん、サッカー選手、野球選手、総理大臣、電車、木琴、その他知りうる限りの語彙を夢にしながら毎日を生きていた。その結果、頭が吹き飛ぶのである。



 スパーキング! (スパーキング! スパーキング!





 で黒木ってだれだよ。





「みちこ、待ってくれ! オレの話も聞いてくれ、お願いだ。確かにオレは三葉虫が好きだった。いや、そうだな、ああ、言うとおりだ。今だって三葉虫が好きだ。お前だけを見ていた頃と違って、もうオレは三葉虫を意識しないわけにはいかなくなっちまったんだ。言わないでくれ! どうやってお前と三葉虫、どっちかを選べってんだ!? そりゃそうさ、お前はオレの大切なヒトだ、間違いねぇ。でもな、三葉虫もオレの大切なヒトなんだ! え、ヒトじゃない? そりゃそうだ、ギャフン☆」